アイドル短歌のつながりで知り合ったアキタさんと相互題詠をしました。相互題詠とは、ざっくりいうと2人1組でテーマを決めて短歌を詠み合う遊び。
言葉を作った(少なくとも私が相互題詠を知ったきっかけの)鷹野しずかさんによる解説記事も出ています。
「相互題詠」やってみた & みんなもやろうよの募集|鷹野|note
アキタさんとはスペースで話が弾んだことから「短歌の企画をしたい」との流れになり、以前から漠然とあったアイデアをやってみたいと思いお誘いしました。
送ったDMの一部を引用します。
ちょうど最近、相互題詠の派生というか「もらったお題と自分が出したお題を両方詠む」のをやってみたいなと思ってました☺️クロス相互題詠?相互・相互題詠…?
結局この両方のテーマを作る相互題詠の名前は特に決めていないままです。「ネオ相互題詠」とか?
アキタさんの作品がこちら。
https://twitter.com/soredemosore/status/1647223253453410306?ref_src=twsrc%5Etfw
いや〜〜良いでしょう。なんと私のリクエストから生まれました。
このようにお互い「箱」と「理想」のテーマで作っています。
作った短歌について
テーマ「箱」を受け取ってからは、連想した要素を書き出すところから始めました。
- 劇場
- ビル
- 段ボール
- 箱庭
- 方舟
貰ったテーマと自分のテーマ、両方を詠み込んだ短歌の計5首を作った順に振り返ります。
あの人にいちばん似合う表情(かお)だけを見てたいあたしにいつか当たる罰(ばち)
アキタさんから「今は表舞台に出る機会が少ない人を後から知って、好きだけど当時の活動に応援も貢献もできなかったのに推しや担当と呼ぶのは申し訳ない」というお話を聞いて、私も理由は違えど「罪悪感から推しと呼べない気持ち」は分かるな〜と思って作りました。
私の場合は「特定の系統の役柄を演じているときが好きすぎて相対的に素がそんなに刺さらない」俳優さんがそうです。共演者さんにもファンにも優しいことがわかる素敵な方なのに。
なんの役も演じていないときの役者さんに、もっと言えば他人に対して(そんなニコニコしないでいてほしい)と感じてしまう自分になりたくなかった!険しい顔や高笑いが映えすぎるのと演技が上手いせいも絶対絶対あるけど。
その人を無邪気に推せないことや、本人画のちょっとしたイラストが可愛らしかったという最高シチュエーションに対しても素直にはしゃげなかったことがもう私に当たっているバチなのかもしれない。
違う時が流れど上空から見れば等しく立方体だ 劇場
箱といえば劇場、ということで。最初の形は「中で何が起きていようと外からは等しく立方体の劇場」でした。
飛行機から見える街並みってどれも四角いけど実際はそのひとつひとつでたくさんの人が生活しているし、中には今この時に全く違う時代や場所の物語が繰り広げられてる劇場だってあるんだよね〜というイメージです。(もし発表までに世間で人の死に関わる大きなニュースが起きたら「上空から見れば」は変えよう、とも考えていました)
立方体の中でだけ広がる時間と空間がここまで人の心を動かすって舞台やコンサートは本当に凄い!とも、受け手にとってはあくまで日常生活とは隔絶したいち娯楽であるとも、その時々の心の持ちようによってどちらも思います。
暗記パン欲しかったけど最近は君にあげたいもしもボックス
過去や仮定に日々思いを馳せているアキタさんへの短歌です。テーマ「理想」もそこから決めました。
あげたいな。もしもボックス。アキタさんがパラレルの別世界にそのまま定住してしまって離れ離れになるかもしれないとしても。(たしかそういう設定だったよね、と思って調べました。元の世界にも戻れるものの、実現する世界はやっぱりパラレルワールドだそうです。)
前提にある「ドラえもんの道具1個使えるなら何がいい?」は、もう日本人なら全員一度はトークしたことがあるだろうとばっさり省略しています。「無人島に何か1つ持って行くなら」レベルで定番の質問のはず。
画像初版の相当ぎりぎりまで「あの子」にしていましたが、既に作っていた短歌の「あの人」と被ったので「君」としました。
鷹野さんとの相互題詠で作った「家」テーマの連作で「日々」が2個になってしまい、でも単体としてはどちらも変えたくないと葛藤して単語被りを取ったことを思い出します。
今回は「君」に変えた結果ぴったり定型に収まったのでよかった!
部屋の隅に重ねた箱の内側で明日の元気が眠っているらしい
これを書いている今も、ずっとあります。部屋の隅の箱が。
中身は映画館で観た映画のBlu-rayと、配信で曲を聴いてるCD。開けて再生したら明日を頑張るモチベになるようなキラキラがあるんだと思いつつ、もう内容を知っているからと置いていることから作った短歌です。
「明日の元気」には「この購入が巡り巡って今後の活動の応援につながりますように」のニュアンスも込めています。「明日」と「元気」の拡大解釈。とはいえ最初は「部屋の隅で積んでる箱の内側で眠る明日への元気と希望」としていたのを「積む」に複数購入の意味が乗ってしまうことが気になり「重ねる」に変えました。
下句「眠る明日への元気と希望」は、全5首を作ってから見直したとき体言止めが多かったので「明日の元気が眠っているらしい」としています。
理想ってなんだと思う?箱庭の外で実った苺が落ちる
各テーマで2首ずつ作ってから、「箱」で連想する言葉を書き出していた中の「箱庭」が「理想」と繋がるなと思い1つの短歌にしました。
「理想ってなんだと思う?」は戸塚祥太さんのソロ曲「星が光っていると思っていた」にあるフレーズ「才能ってなんだと思う?」から取っています。
作っていたとき苺のチョコを食べていたから、箱庭と苺のイメージが浮かびました。理想→楽園の連想で「りんご」でもいいかな?と思ったものの、柔らかさと水気と生々しさを「箱庭」の静けさと対称にしたかったので苺に戻したという経緯です。
私が作りたい短歌の理想は、日常と抽象と耽美を全部少しずつ入れた上で湿度少なめで平易にまとまっていること。かなあ。
画像について
今回はじめてツールを使わず自力で短歌の画像を作りました。テーマごとに左右で背景色を分けたい!と思いついた時点でうたの短冊メーカーさんが使えないのを覚悟していた。アプリでいけるかな?とも思ったものの、結局PhotoShopを使っています。
「箱」側は段ボール箱から連想した色で、よくわからなかった「理想」のイメージカラーは茶との対比と白字が映えそうな濃い緑にしました。自選10短歌集に参加したときも自分のページの文字色を緑(ビリジアン)にしてもらっています。
Photoshopを開いたのが5〜6年ぶりだったけど、意外となんとかなりました。これからも自分で短歌の画像を作れそう。
字体は以前ダウンロードしていたフォント「ほのか新アンティーク丸」です。
「ほのか新アンティーク丸」フォントは丸ゴシック系の漢字に明朝体風のウロコの付いたかな文字を組み合わせたアンチック体(アンティーク体)の日本語フォントです。
ひらがなカタカナと漢字で雰囲気が結構違うんだけど、その少しちぐはぐなところが理想に焦がれて届かないままならなさに通ずると感じて気に入っています。
おわりに
「もらったお題と自分が出したお題を両方詠む」楽しかった!作っているときも楽しかったし、シンプルに作品を見るときのワクワクが倍になります。これが相互題詠のスタンダードになりませんか?
連想するモチーフが被らなかったのが面白い。たとえば同じ「箱」でも「パンドラの匣」と「箱庭」はお互い全く思いつかなかったと言い合いました。
あえてデメリットを挙げるなら、100%で相手に沿ったテーマを選べなくなることかもしれない。今回は自分でも作れそうだったから迷わなかったけど、思いついたテーマによっては日和って変えていた可能性もあります。あとは1テーマに対して2〜3首だと連作としてはボリューム不足になっちゃうとかかな。
アキタさん、お付き合いいただきありがとうございました!
こちらもどうぞ。自選2022の振り返りです。