震えてるのは君のほう

You’re Dream Maker.

ミュージカル「COLOR」浦井・柚希ペア感想

ミュージカル「COLOR」9月10日の夜公演を観てきた感想です。キャストは浦井健治さんと柚希礼音さん、成河さん出演の回。

原作『記憶喪失になったぼくが見た世界』は未読ですが、題材に惹かれてチケットを購入しました。

昨年「マタ・ハリ」で心奪われた柚希さんの回を選んだら、来年の「キングアーサー」で浦井さんも観られることになった。

というかキングアーサーの制作発表アーカイブを見た勢いでホリプロのサイトに飛び、両作品のチケットを取っています。歌唱が最高。

【9/12(月)まで先着先行中】ミュージカル『キングアーサー』プレイベント(製作発表)アーカイブ配信中 - YouTube

場所は新国立劇場の小劇場。中劇場には年に1〜2度ペースで足を運んでいるけど、小劇場の方は2018年に「アンチゴーヌ」を観て以来でした。いつまでも新宿駅から初台への乗り換えに慣れない!

※ここからネタバレあります

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着席してまず驚いたのは、舞台上部と上手側を大きく覆うようなセット作りでした。スクリーンだったとは。

音楽はピアノと打楽器の生演奏でした。

雨が降る日の夕方。帰宅途中に乗っていたスクーターが、トラックに衝突。救急車で搬送されるが、そのまま意識不明の重体に。集中治療室に入って10日後、奇跡的に目覚める。しかし、両親のこと、友人のこと、自分自身のこと、そして、食べる、眠るなどの感覚さえも、何もかもすべて、忘れていた。

新作ミュージカル『COLOR』 | 【公式】ホリプロステージ|チケット情報・販売・購入・予約

美大に入ったばかりだった中、バイク事故で記憶を失って幼い子供のようになった18歳の青年ソウタ。(手記の作者である坪倉優介さんとは全く違うフルネームが設定されていたけど、役名も「ぼく」となっているし、忘れてしまった)

足掛け5年かけて彼の手記執筆をサポートした編集者が語り手となり、過去を振り返る形で進む物語です。

ラスト近くでのソウタの講演では、ここを使って彼自身が過去を振り返る形にしてくれてたら前半から中盤にかけてもう少し落ち着いた心境で観られたな!と思いがよぎりました。ノンフィクションが原作な以上、彼が手記を書き草木染め作家として再出発するまでに回復したことは分かっていたのに。

分かっていてもそう思ったくらいに、序盤の浦井健治さんは発声や立ち居振る舞いが幼児のようで彼の不安に呑まれそうになりました。たどたどしくも心境を歌う音程はしっかりしていて、たしかに子供(のような状態)として歌うことって滅多にないよねとふと冷静になった。

産まれ直したかのような重度の記憶喪失と、かつての息子の喪失と向き合い現在の彼を受容する母の姿に説得力を持たせていたのは間違いなく浦井さん柚希さんの力でした。ふたりの歌と演技による表現力が痛いほどに伝わってきた。抽象的になってしまったけど、あの90分で感じたのはやっぱり「表現力」だったと思います。

成河さんは実年齢を感じさせない演技でした。編集者から父親、大学の友人までとそのときそのときの役として存在していました。

ギターの弾き語りをしていた友人(彼の名乗っていたフルネームは覚えている。いとうひかる)との場面が特に好きだったので、彼が一度だけの登場だったのは少しさみしかったな。その分、歌が草木染めの場面でまた歌われたのが嬉しかったです。

UFOキャッチャーと自動販売機が登場して、ポップにデフォルメされていて可愛かったのも印象的。どちらも普段なかなか演劇の大道具として出てこないものなので、見ていて楽しかったです。

UFOキャッチャーの場面は大道具と演出の愛らしさ、歌のキャッチーさと「ぼく」の心境の閉塞感が自分にも多少通ずるところがあっての辛さがせめぎ合う忙しいシーンでした。でもぬいぐるみを抱えて帰ってくる姿が微笑ましかったので、可愛かったの勝利。

物語の転換点にもなっていた草木染めを始めた場面では、「色を奏でよう 今この時の命の色」のフレーズに(視覚の「色」に聴覚の「奏でる」を繋げていいんだ)と驚きました。記憶と結びついた常識や固定観念を一回失くして見える世界とは、というテーマがメインの曲の歌詞にも取り入れられていたなあと改めて感じます。

手記の出版後の反響について「あなたは運命の人です。結婚してください」という手紙も届いたと語られていたのが恐ろしかったです。度々ニュースや話題になる行き過ぎたファンのストーカー化の一端がノンフィクションにおいてもあるのかと。おそらく実話だと思うし、たとえプロポーズの手紙についての台詞がフィクションだったとしても、ありうるなと感じたので。

「ぼく」の発言の中では「今いちばん恐ろしいのは、記憶が戻ること。新しい過去を愛しているから」といったニュアンスの言葉が印象に残りました。ここまで壮絶な体験を乗り切ってなお、元の記憶が戻ることが恐ろしいものなのか。それとも一度乗り越えたからこそ?と客席で考え込んでしまった。

編集者さんが「過去を捨てて〜とか気軽に言えるのも、記憶が自分そのものだって気付いてないからだよね」と(いった内容を)語っていたことも合わせて重く残った言葉でした。

休憩なし90分(なんならカーテンコールと規制退場も込みで90分でした)でまとめられた中、時間の短さを感じさせない濃さを感じた作品です。端折ってもいるとはいえ、1作品で数年分を見届けることは少ないということも理由にあるかもしれない。

 

終演後は、坪倉優介さんの草木染め作品を見ました。ロビーの1階と2階にあります。

原作が売っているのを見かけて気になったけど、物販に長い列ができていたので諦めて帰ってしまった。これから読みたいです。

キングアーサーでの浦井さんもいっそう楽しみになりました。

 

過去の柚希礼音さん出演作品の感想はこちらです。