震えてるのは君のほう

You’re Dream Maker.

舞台「ウィングレス」5/20昼公演の感想

紀伊國屋サザンシアターで「ウィングレス 翼を持たぬ天使」を観てきました。5/20の昼公演。

鴻池さんの過去作は未見での感想です。今作のあらすじに惹かれてチケットを取りました。

人間の女性に惚れて天使をやめた元天使は、失恋し、もう一度天使に戻りたいと神様に頼み込む。が、神様は「一人の人間を本当に救ったら、天使に戻す」という条件を出した。かくして、元天使は、「天使本舗」という会社を作り、人間達の救済に乗り出す。が、人々の悩みを解決しても、「本当に救う」ことにはならないと神様はいう。そんな時、元天使は夜の公園で小学三年の麻衣と出会う。彼女の母親は、スピリチュアル的陰謀論の「宇宙の声」にはまっていた。かくして、麻衣を救うために、元天使は「宇宙の声」代表の神山秀雄と戦い始めた。

舞台『ウィングレス(wingless)』公式

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よみうり大手町ホールでやってそうな雰囲気なのにサザンシアターなんだな〜と思っていたものの、数年前に大手町で観た「天国の本屋」に引っ張られているだけな気もする。

前日予約の当日券で入ったら今年いちの前方列、そして中央でした。基本的に後方の当日券で、時々こういう先行のキャンセルを取れたんだろう日があるのでやめられない。

双眼鏡も持って行っていたけど、使ったのはレストランのシーンでパスタが来たときの1回でした。舞台上の食事シーンで本物か小道具かをじっくり見るのが好きです。今回のパスタの正体?は結局分からなかった。

 

Twitterで「インターネットで目にする社会問題の全部乗せだった(ニュアンス)」という感想を読み自分には合わないかもな〜と迷いつつ来ていたのですが、開演前に席に置かれていた脚本・鴻上さんの「ごあいさつ」を一読して吹っ切れました。こういう人が書いた話なんだな、と心の準備ができた。

「自分で考えて判断することの大切さ」についての話の締めにChatGPTに翻弄されるエピソードもあったので、このあとの本編に近々のモチーフまで出てくるのも全然ありうるぞと。(流石にそこまで新しいものの話はなかったです)

 

開演後にまず宇宙の映像が出て、プラネタリウムかソアリンみたいな映像型アトラクションに来たかと思った。映像から生の舞台に切り替わる流れが見事でした。そして「飛び降りた女性を空中で受け止める天使」の絵を文字通りの絵の動きで見せて表現するとは。

インターネットの語彙が出ることは覚悟していたものの、実際に天使の口から「毒親」って言葉が出るとずいぶん俗だった。ぎりぎりリアルでも口にされる、人間を日々見守る天使が耳にしてても自然な言葉?でも人間になって即SNSとホームページで天使本舗を宣伝に取り掛かっていたし、全体的に現代に慣れているのかと納得しています。

人助けの会社に便利屋扱いの依頼ばかりが来る展開に映画「オレたち応援屋!!」を思い出し、1人頷いていました。

それにしても大筋の展開が全く読めなかった!

少女の母が娘を気にかけず死者との会話に固執する理由と、榊原が元天使の能力3つ目に気付かなかった理由の繋がり(小学3年生の麻衣はマンションの屋上から遠くに母親を見つけて身を乗り出した勢いで転落死したことを自覚せず現世に留まっていて、死者がはっきり見えて話せる能力ゆえに生者との区別がつかない榊原も何も気付かず彼女と交流を深める。麻衣の母親は娘に謝罪したい一心でスピリチュアルにのめり込んでいる、という経緯)に全く思い至らなかったです。人によっては分かったんだろうなあ。私は榊原と同じタイミングで事実を受け止めました。

歌のシーンは終始(序盤の作曲のうちから)泣き笑いで見ていましたが、小学生の女の子におしゃべりしてやり込められる福ちゃんさんの様子は微笑ましく可愛かったです。中川陽葵さんが演じていた麻衣ちゃんの歌もとても素敵でした。

 

序盤で笑いどころに見えていた「人を一瞬だけ優しい気持ちにさせる能力」もクライマックスにしっかり回収されて内心で盛り上がっていました。あの場面、舞台上の男性陣が必死でウイルスを追い払おうとする方向が思いっきり客席側だったので笑いと若干の抵抗感が自分の中で拮抗していた。ぎりぎり笑いが勝ちました。

ただ元天使の能力の中でも「体温が分かる能力」については、レナちゃんが自棄で榊原に告白したとき体温が不自然に高かったときの意味というかどういうことだったのかがいまいちわかっていない。

わかっていないといえば、中盤のあの突然の全員集合ダンスシーンに何だ何だと動揺しました。皆ばっちりダンスしていて凄かったけど。オープニングってわけでもなかったし、あれは鴻池作品の定番とかなんでしょうか。

 

個人的に作中でいちばんツボだったのは、神山先生が「彼女があの男と連れ立ってここに来た時の榊原君の顔、それに彼女が彼を見つめる熱っぽい眼差し!」みたいな台詞を言っていたとき後ろのスクリーンに回想として顔がでかでかと映し出されていたことかもしれない。

出ていた写真の視覚的な面白さと(いや言葉だけで大体分かるよ!観客の想像力をもうちょっと信じていいよ!)をメタ的にツッコミたい気持ちとで二重の笑いがありました。

今思うと、あえてこの表現が取られているならこちらも全力でウケるしかない!の気持ちもあった。

 

今回はじめて拝見した小南光司さんが格好よかったです。長身でスタイルが良くて顔立ちが端正でスーツが似合っていて、先生への執着が重い上に最後の最後までしぶとい。いい役でした。

観劇後にアカウントを見て見つけたお気に入りの写真を貼ります。

編集長のコミカルな動きも楽しかったな。

 

月並みだけど、家族を大事にしようと思いました。あやこさんの台詞「あの子がいた時は麻衣のことを忘れよう忘れようとしていたのに、いなくなってからは麻衣のことばかり考えてる」が胸に刺さって。

祖父が亡くなった翌日に、祖母が「自分は見送られる方だとばかり思っていたのに。こんなことになるならもっと優しくしておけばよかった」と言っていたのと重なりました。

でも実際のところ毎日毎日「今日か明日いなくなるかもしれないから」と思って家族や周囲に優しくすることなんてできないよなあ。そのバランスというか塩梅が難しい。人生の課題です。

 

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