12月10日の「演劇ドラフトグランプリFINAL」配信をリアルタイムで見た感想です。初回の一昨年は配信アーカイブで観て、昨年は現地に行っていました。
アーカイブが年明け1月5日までなので、もし未見でこの記事を開いてくれている方がいたらぜひ見てほしい。年末年始のおともによさそう。
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各劇団の感想
※ドラフトの配信は見たものの、劇団ごとにやっていた配信はどれも未見での感想
演劇やろうぜ「約束のピクニック」
【座長】 染谷俊之
【演出】 毛利亘宏
【演劇テーマ】 ピクニック
「演劇やろうぜ」って聞くたびに大谷翔平の「野球しようぜ」が浮かぶんだけど、そこから来てますか?
家を出てから車に轢かれかけて遅れたってそれ事故に遭ってて魂だけみたいな感じで来てない?いや違うかな?と迷いつつ見ていたら、やっぱりそういう話だった。
でもそれだと当日家を出るまでは元気だったわけだから「ヒロシさんが死んでから、俺たち会わなくなってたもんな」の台詞と矛盾するのが気になる。
本格的なお弁当作りが始まってびっくりした!使える道具のギリギリを攻めていた。
一人ひとりが悩みを語っていたあたりは、現実に引き戻された感じで少し冷めてしまったな。個人的には(特に演劇ドラフトだと)ファンタジー寄りだったり名作オマージュ系のストーリーが好み。
田中涼星さんが待ち合わせの目印としてぴょんぴょん跳ねていたのが微笑ましかったし、ラストが爽やかだったから後味はよかった。
ハッシュタグを見たとき、現地組が武道館を出てからの感想に「料理のいい匂いがした」があってハッとした!想像もつかなかった。どのあたりの席まで届いていたんだろう。これは確かに現地の方が圧倒された作品かも。
あと染谷さんってキムタクみたいにどの役でも本人のオーラが滲み出ている印象を持っていたから、今回は普通の男性役として溶け込んで見えて驚いた。
SADAMEN「運命(さだめ)と知るべし」
【座長】 玉城裕規
【演出】 中屋敷法仁
【演劇テーマ】 運命
見終えてから中屋敷さん演出だったのを知った!これまでの傾向を元に、本気で優勝を狙ったんだと感じる。
時代もの。衣装が華やかで、語りのリズム感が良くて楽しかった。
ぽやぽやしていた兄の豹変に驚いていたら「実は死んでいた」展開が直前の作品と被った驚きが上回った。
昨年までに被りを感じたことがなかったから裏でそれなりに調整されているのかもと想像していたけど、本当にガチだったんだと実感。
とはいえ千代丸は自らの死に愕然とした後で一旦本筋から退場したし、やはり被っていたというほどではないかな。それに時代背景や登場人物の家柄を踏まえると命がかかった話でも自然だといえる。
むしろその場面以降の、玉城さんの鬼気迫る表情が凄かった。
ラストは結局、ある程度時間が経ってから死後の世界で兄弟が再会したってことでいいのかな。
この時点で投票するならこれかもとよぎりつつ、でも3年連続でシリアスな歴史ものが評価される流れも悔しくて。推しに勝ってほしい思いは捨てて〜みたいなアナウンスに毎年(平日の夕方から来ている客をなめるなよ)と憤っていたのに、回を重ねるうちにこういう方向性で逆張り精神が生まれてしまった。
雪猿「ツンドラクリーム」
【座長】 荒牧慶彦
【演出】 三浦 香
【演劇テーマ】 雪山
【出演者】 砂川脩弥 廣野凌大 松田昇大 持田悠生
最初に白い布が舞うのを綺麗だ〜と見ていたら、展開のテンポの早さに圧倒された。
SF設定も絵的な華も、終わり方のほどよい切なさも好みだったな。「ウザいロン毛の茶髪で略して烏龍茶」もツボだった。
昨年の三浦香さん演出作品「愛のシンクロ」にあったドタバタ感や伏線回収の巧さも残しつつ、今回ますます演劇ドラフトグランプリ向けにチューニングされたように感じた。単純に今作のテンポや感動要素が自分の好みに近かっただけの可能性もある。
トナカイと人間のハーフが登場して、昨年の国士無双「君だけの宝物」にいたトナカイを思い出した。時期的なところからトナカイ人間の発想が生まれたのかな?クリスマスじゃなくてバレンタインの話ではあったけど。
それにしても演劇ドラフトグランプリに、女性役を3人出すという差別化のソリューションが残っていたとは。ゆきちゃんが持田さんなのは途中で気付いた。本編後のインタビューで雪女が荒牧さん、ぴりかちゃんが廣野さんとわかって納得。
雪猿のパパがツッコミを入れて観客の視点になってくれていたことで、ストーリーに入り込みやすかったのかもしれない。
最後の座長インタビューで、家族愛もテーマのひとつに意識していたと聞けたのもよかった。裏テーマ「女装」ではなかったよと。
アクタゴン「再生する」
【座長】 須賀健太
【演出】 川尻恵太
【演劇テーマ】 引っ越し
【出演者】 唐橋 充 松井勇歩 三井淳平 山﨑晶吾
2022年「林檎」以来の難解枠だ。というのが前半の印象。三井さんがいきいきとママをやっているのは伝わってきた。
「ひ」の発音が「し」になっちゃう人で江戸っ子だった高校の体育の先生を思い出したので、身体的あるいは文化的な発音の癖を小地獄(こじごく)に落ちた扱いしないで!と思っている。
5人が死後の世界で前世の記憶として演劇ドラフトグランプリを振り返っていたけど、自分は初回から観ていた上でそういう内輪の要素はない方がいいなと感じた。この作品がトリだったり、もっと自然な触れ方なら好きだったかな。
案外、もし今回が初見だったら(過去分の振り返りありがたい〜)とすんなり受け入れられたような気もする。実際に今年初めて観た人はどう感じたんだろう。
これを演出したのが川尻恵太さんだというのが意外だった。たしかにコントっぽさは随所にあったんだけど。
音響や照明での変化をつけなかったり衣装もシンプルな白で統一するような硬派さやステージに無人の時間を作る尖り具合、ラストのダークさは過去に観た川尻さん演出作品のイメージにないものだったので。
勝部「敗部の叫び」
【座長】 七海ひろき
【演出】 私オム
【演劇テーマ】 部活
【出演者】 木津つばさ 椎名鯛造 高橋祐理 萩野 崇
なんとなく「かつぶ」読みだと思っていたけど「しょうぶ」だったのか。
役名を役者さんの名前にしてくれているのがありがたかった。この役があの人かな?と気が散ることがなくて役名も覚えなくてよい分、本筋が入ってきやすい。
道具は太鼓のみの潔さと、音が場面転換にも使われていたのも好き。
テーマ「部活」らしく王道の青春ものでいいなと思ったのも束の間、また人が死んでしまった……。去年と一昨年はそんなことなかったのに。
普段からいわゆる「冷蔵庫の女」(これは悲劇的な展開のために犠牲になるヒロインを指す言葉だけど)を感じると冷めてしまう。特にこのストーリーだったら「荻野先生が事故で意識不明、駆けつけたい気持ちを抑えて舞台をやり切る」くらいでもよかったんじゃないか。
と雑念もありつつ、七海さんのかっこよさと通る声が素晴らしかったし応援シーンは素直に胸に響いた。演劇ドラフトグランプリの、しかもFINALのトリに合っていた作品だったと思う。
そういえば2年続いて私オムさんの演出作品で締められて、どちらもしっかりラスト感のある内容だったのがすごいな。
あとジャンプ編集長さんのコメントが七海さんに沸いている「こちら側」で親近感を持った。
投票
1作品を選ぶのではなく、各作品に星5〜0をつける投票。今年の投票方式は違うと序盤のルール説明で見ていたけど、5点を5作品に割り振ると勘違いしていたから画面を開いて焦った。
入れたのは上演順に3,4,5,2,4点。時間切れで無効票になるのが怖くて、最後は勢いで送信した。雪猿を唯一の最高点にした決め手はテンポ感と明るさ、爽やかさ。
逆張り気味な上にそもそものエンタメの嗜好が子供舌な自覚はある、二次元の作品とかでもダウナーキャラは好きになったことがないし。
総括
ナビゲーター顕嵐さんと、レポーターのひとり福澤さんを見てドラマ「oddboys」が懐かしくなった。
自分は雪猿に最高点を入れたけど優勝はSADAMENか勝部だろうな、過去2年トリが優勝しているから勝部かな?と結果発表を見ていたら雪猿が優勝。自分と多数の感性が一致したことに驚いた。
2022は投票できなかったけど超MIXの作品(Luda)がいちばん好きで、2023は国士無双(君だけの宝物)に入れていてどちらも優勝に至らなかったのに。
「僅差だった、どの作品にも多くの票が入っていた」と言われていたし、今回はシリアスを好む層の票が割れたんだろうか。それか美女と可愛い女の子は正義ってこと?
昨年の最後に川尻さんが「次はコメディで勝ちたい」と話していて、自分も優勝作品の傾向が変わるところを見てみたいと感じていた意味でも雪猿の優勝が嬉しかった。そして川尻さんも今年の最後のコメントで「前回コメディで優勝したいと言ったので、自分の作品でなくとも嬉しい」のように触れてくれていた!
前回と今回で大きく違ったところ、そして少し寂しくもあったのは作中でオリジナル曲が生まれなかったこと。
今年の夏から秋にかけてスピンオフ企画が盛り上がっていたのが楽しかったけど、来年はそういうイベントはなさそう。
特に「愛のシンクロ」が好きで、ディナーショーを配信で見ていたし曲の配信リリースが嬉しかった。
最後に。荒牧座長、優勝おめでとうございます。そして3年間ありがとうございました!中屋敷さんらと同じように、こちらも演劇をますます好きになりました。
今後の再開、あるいは意思を継いだ誰かによる復活も気長に待っています。ビッグラブ!
過去の感想