震えてるのは君のほう

You’re Dream Maker.

舞台「A・NUMBER」感想

10月15日、舞台「A・NUMBER」東京公演を観てきました。

紀伊国屋サザンシアター数年ぶりだ懐かしい〜と思っていたのに着いたら初めて来る劇場だった。ここで合ってる!?と慌てて検索したら、行ったことがあるのは「紀伊国屋ホール」でした。

同じ紀伊國屋でも、サザンシアターは書店の奥じゃなかった。

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仮面ライダーバイスで親しんでいた戸次重幸さんと、2021年1月に舞台「OSLO」で深みのある声が印象的だった益岡徹さんでの二人芝居。さらに演出も「OSLO」の上村聡史さんとのことで、気になりチケットを取りました。

『Oslo』-オスロ- | サンライズプロモーション東京

 

ここからはストーリーの内容にも触れた感想です。

親子とは?クローンとは?って話なんだよね、父親が自分のクローンを息子として育てていてそれを知った息子が葛藤するんだっけ、の気持ちで臨んだら全然違いました。

クローン技術が進み、人間のクローンをつくることは技術的には可能になったが、法的にはグレーゾーンにあたる、そんな近未来。
ある日、自分がクローンであることに気づいた35歳のバーナード(B2)は、父・ソルターに自分をつくった理由を問いかける。
ソルターは、亡くなった実の息子を取り戻したくて医療機関に息子のクローンをつくりだしてもらったと言うが、
実は医療機関ではソルターには秘密で、ひとりではなく複数のクローンをつくっていたらしい。
しかも、実の息子バーナード(B1)は生きていた。

A・NUMBER ア・ナンバー

公演時間70分休憩なしってどうなるんだろうと思っていたら、想像以上にダイナミックに説明を省いてどんどん進めるタイプの舞台でした。

近年は心情や設定を明確に言葉にする作品が多いと感じる中、説明を極限まで削ぎ落としていくとこうなるのかと思いながら観ていた。

 

暗転で場面が切り替わり、そのたびに戸次さん演じる人物が変わるので展開に着いていくのに必死でした。外見上は上半身の服装が違うだけなのに。

自分がクローンと知って動揺する弱々しい息子(あらすじ上のB2)はくたびれたパーカー姿。リバイスでの戸次重幸さんはずっと父親の顔をしていたから、息子として父へとすがる姿が新鮮でした。

次に登場したのは、放置気味な子育ての末に捨てられた経験から粗暴な性格となった実の息子(あらすじ上のB1)。裾の長い濃紺のジャケットを着込んでいて、その下の左腕にはタトゥーがあった。ジャケットを脱いで西洋の男性の顔を描いたタトゥーがあらわになった時は、双眼鏡でじっくり見てしまった。

最後に出てきた「別のクローン」な彼は、小綺麗なライトグレーのジャケットに白いシャツ。自分が複数作られたクローンの1人であることに嘆かず思い悩まず、爽やかに妻と子への愛を語る人物でした。

「私は、青い靴下が好き!」や「私たち、あと19人居ますよ〜」と明るくコミカルな台詞もありながら最後には「幸せですよ。すみませんが」と物語をばっさり断つ。そうした役柄での戸次さんも見られて嬉しかったです。

戸次さん、70分こんなにもハードに3役を演じつつ東京楽はマチネとソワレの2公演後にリバイストークショーに出演していた。お疲れさまでした。

 

虚実の入り混じっていたストーリーを理解しようと整理したので、書き留めます。

  1. 父は息子のクローン(B2)を作った経緯を「当時4歳だった息子(B1)と(元々「母さんはお前を産んだ時に亡くなった」と説明していた)妻を交通事故で失った悲しみから」と説明。
  2. 実際には、妻は息子(B1)が2歳の時に自殺していた。遺された父子で暮らし始めたが、2年で子育てに挫折。懐かない息子(B1)を(おそらくクローン作成機関に預けることで)捨て、彼の細胞を元に作った子(B2)を引き取り1人で育てていた。
  3. B1と対面したB2は、彼に怯えず生きるため外国へ逃げる決意と父に伝える。
  4. 父の元へB1が訪れ、B2を殺したと告げる。
  5. (父はB1と過ごすが、やがてB1も自殺する)
  6. 1人になった父は、息子の別のクローンである青年を訪ねる

こうして見返すと、物語上の主役は「父」だったなと改めて感じます。父親である彼、ソルターの身勝手さの物語だった。終始エゴでもって二人の息子を追い込んだのに、それでも「息子が恋しい。二人とも恋しい」の台詞には胸を打たれました。

台詞といえば、最初の場面転換の前にあったやり取りも印象に残っています。

「僕にその子と同じ名前をつけたの」

「もしそうだとしたら、余計に嫌か」

「たぶんね」

公演終了後はカーテンコールもあっさり終わり、半ばあっけに取られたままに終わった作品でした。アフタートークがあった回だと、また空気ががらっと違ったんだろうなあ。

 

舞台「OSLO」の感想はこちら。

こちらは戸次重幸さんが所属しているTEAM NACSのメンバー、安田顕さんが吹き替えに出演している映画「バッドガイズ」の感想です。