震えてるのは君のほう

You’re Dream Maker.

舞台「行先不明」感想

池袋のサンシャイン劇場で「行先不明」を観てきました。佐藤アツヒロさん主演、五関晃一さん出演。

積立金横領をきっかけに繰り広げられる「お仕事コメディ」とのことでしたが、そのジャンルには収まりきらない気がするな。

強引に当てはめるならギスギス人生サスペンス(コメディ要素もあり)みたいな。

あえて別の作品で近い印象のものを挙げるなら半沢直樹で、さらに半沢直樹ががっつり男社会の金融ドラマだったことへのカウンターも込みって感じ。

女性の働きにくさ、派遣社員ゆえの苦労、世代や家庭のありなしで異なるそれぞれの悩みなどさまざまな立場からの主張が繰り広げられました。

小さな旅行代理店。
社員の 佐々雅晴(佐藤アツヒロ)は、誰からも“運が悪い”と言われ、数々の伝説を残す男。
佐々から社長の座を奪った檜山(真琴つばさ)、まっすぐな性分の三國(五関晃一)ら社員たちは、毎日の仕事に追われながら「いつか自由に時間が使えるようになったら――」とそれぞれささやかな夢を抱いていた。
そんなある日、将来のために積み立てていたお金が消えたことが発覚!
安岡(伊藤萌々香)ら社員たちは動揺するが、ある事情から、佐々は自分たちで解決することを選んだ。
社内には、前社長の高松(福田転球)や派遣添乗員の夏目(馬渕英里何)も出入りしており、突然退職した元経理の津野田(永島聖羅)も怪しい。しかも、親会社から井口(ヒデ)が調査に訪れることになり――
必死に自分の未来を取り戻そうとする彼らの明日は、一体どうなる――!?

行先不明

社内教育の教材になりそうでした。「PCのパスワードを外部に伝えない」や「お茶は自分で淹れる」、そして「トラブルを隠蔽しようとすると問題はさらに大きくなる」。

数百万円の積立金が口座から消えた以上、被害の拡大を防ぐために一刻も早く公にするべきだと思うんだけど。この考えも、守るものが比較的軽い20〜30代ゆえだと数十年後(もしかしたら十数年後)の自分は思うんだろうか。

だとしても、二幕の中盤あたりまで皆が横領疑惑の解決というより隠蔽を目指していたのは正直きつかった。特に社長役の真琴つばささんは強いオーラを放っていた分、彼女が保身に走る姿が辛かったです。

同じ松竹「なにわ夫婦八景」での真琴つばささんはOSSKのスター、その後は良妻賢母として理想の女性像を体現していましたが、今回は人間味をより強く感じました。

桂米朝五年祭 喜劇 なにわ夫婦八景 米朝・絹子とおもろい弟子たち

ちなみに積立金の行方をざっくりネタバレすると「前々社長の不正を周囲に訴えても取り合ってもらえなかった元経理担当者が、退職を機に(経費の私的利用に使われていた)代理店の隠し口座へ積立金を移し問題を明るみにしようとしていた」です。

 

昨年12月の「ジャニーズ伝説」ぶりに生で観た佐藤アツヒロさんは、ローラースケートで駆け抜けた姿とはうってかわって場のバランスを取るのに奔走する苦労人でした。素敵だった。おじさんと言うにはまだまだ若々しいものの、穏やかな笑顔がおじさま好きのハートに刺さります。

こんな素敵な佐々さんが奥様いや元奥様と何があったっていうんだ。そして五関さん演じる三國さんがラストに言いかけていた「佐々さんって、運が悪いわけじゃなくって」は何を言おうとしていたんだ。

五関さんの三國役は、序盤でお客様にもずけずけ言うのにぎりぎりのところで怒られない「得な性格」で「要領がいい」と称されていました。分かる〜と本人に重ねて、当て書きなのかな?と観ていました。序盤までは。

話が進むにつれて彼の正直さが事件の隠蔽には不都合となり、本人からも自分の立ち回りに悩んでいるという描写が出てきます。「振付師さんに怒られない」といったエピソードを持っている五関さん自身も、それゆえの悩みもあっただろうと感じました。

佐々さんが「20代までは性格でも、30超えたらそれは生き様だと思うんだ。だから三國、お前はつまらない嘘つくなよ」と諭す場面では、自分にも言われているように感じて涙目で舞台上に見入りました。

自分の意見をしっかり言葉にすること、そして人の言葉は真剣に聞くこと。それが「行先不明」という作品のメッセージだと捉えています。

普段なかなか目にすることのない、後輩として振る舞う五関さんは新鮮でした。そして若手社員としてだけでなく、インターン生へ先輩として接する姿も見られて一粒で二度おいしかった。裏声も聞けました。

 

ペナルティのヒデさんも印象深いです。各社員のプロフィールを細かく覚えている(のに名前は間違える)作中でも一二を争うくらい癖の強い人物を演じる演技力と、それでもやっぱりお笑いが本職なんだと実感した絶妙な間の取り方。

生々しい口論も多かったこの作品が「お仕事コメディ」になったのは、ヒデさんの力量も大きいと思います。

リアルもしんどさもメッセージもまるっと詰め込まれた作品、それが「行先不明」でした。

Windows7を使い続けるのはやめましょう。